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未来派図画工作のすすめ/自由ノート

いつだって学びなおせる

2022年。もう一年前になりますが、東北芸術工科大学の芸術工学研究科修士課程を修了することができました。「平日ダイヤ」「移動祝祭日」「大歳ノ島」。在学中の2年間でこの3作品を作ることができました。

独学で学んできた映像表現を、学びなおしたい。自分にとって表現はどういう意味を持つのか、表現を研究するとはどういうことなのか。後回しにして、忘れたことにしている自分の大切な想い。その想いと無理矢理にでも向き合う機会を作るために。それが大学院入学のきっかけでした。

働きながらの研究・制作は想像以上に大変でした。新しい職場での仕事が始まりながら、2つ大学でゼミが同時進行していたのも重圧でした。しかし、どれも全力で取り組んだつもりです。これまで身につけたことを一旦リセットして、ゼロから学びなおす意識で、新しい知識と経験を最大限吸収できたと感じています。

指導教員の西村宜起先生との出会いは30年前。当時一期生として入学した私がCGを学ぶきっかけを作った方でもあります。その西村先生が退官されるタイミングで修了でき、感謝しかありません。ありがとうございました。人と人とのつながりが巡り巡って人生の物語となっていく。そんな感覚を感じています。

それにしても、作品を作るということは、こんなにも苦痛で、こんなにも面白いのか。というのを改めて感じた2年間でした。知れば知るほど、分からなさを知る。対象が遠くへ行ってしまう。想像力をカタチにするための技量の不足。久しぶりに全力でもがきました。

人生、いつだって学びなおせる。
卒業して一年。そんな思いが強まる日々です。

東北芸術工科大学へ

今年度から、東北芸術工科大学の映像学科の専任教員となりました。同大学を一期生として卒業してから、25年ぶりに古巣へ戻ってきた形になります。
映像を志す若者たちと、新しい映像表現に挑戦していきたい。そんなシンプルなワクワク感を感じています。
社会に出てからこれまでの間、映像を中心にさまざまなプロジェクトに携わってきました。その経験と知識を、映像デザイン教育に活かしていくつもりです。

ただ映像のデジタル技術は日進月歩。
おそらく実際には、学生たちと共に学びながら、共に世界に向かって発信を模索する日々が始まるのだろうと思っています。
最近積極的にリアルタイム3DCGの情報発信を心がけているのも、こうした模索の一環です。デザインを語り始めるとどうしても抽象的になって、現場から浮遊してしまう感覚があったので、今は、積極的に手を動かして、自らが直接作る状況を増やしている所。(これがまた楽しく刺激的なのですが)

今回は、さまざまなご縁とタイミングから、数年間の熟考の上の決断となりました。この物語は長くなるので今回は割愛しますが、相談に乗ってくださった方々や、様々な助言をいただいた皆様に感謝しかありません。
また、これまでお世話になっていた宮城大学では、今年度も客員教員として、継続的にデザイン教育に協力する機会をいただいています。もちろんWOWでも複数のプロジェクトに関わらせてもらっています。プレゼンツールの「Breakfast」もオンライン講義に対応した、大幅バージョンアップが進行中です。

というわけで、私は今、このような近況です。(大学院二年生でもあるのですが、ややこしくなるのでここでは省略)東北をデザイン教育の拠点にしたいという思いは変わっておらず、今でも私の原動力です。

移動祝祭日

大学院二年生として「移動祝祭日」という映像作品を作りました。喪失感や時間、記憶をテーマとしたリアルタイム3DCGです。昨年の一作目「平日ダイヤ」以上に制作時間の確保に難儀しましたが、家族や同僚の先生方に協力してもらって、何とか作ることができました。本当に感謝しかありません。

自分の作品を作るというのは、意味を見出すことを含めて、想像以上に大変です。しかも自分の場合、自ら入学・授業料を払って、どんどんこのような状況を作り出している。でも、ふと思うんです。考え方によっては本当に贅沢な時間、尊い時間なんだと。仕事や業務では思いもよらない方向のリサーチや、迷走や好奇心にゆだねる制作プロセスなど。忘れていたことを思い出すような感覚を味いました。

なお制作にはまだ早期アクセスバージョンのUnreal Engine5を使用しました。前作よりもすこし技術的スキルがアップできたかなと思います。

平日ダイヤ

今年度(2020)から、東北芸術工科大学の大学院生として映像を学び直しています。修士一年目の研究テーマは「繰り返しと偶然性が可能にする物語」。自分にとっての新しい表現領域を開拓すべく、リアルタイム3DCGに挑戦してきました。

作品の詳細はこちらのページにあります。

通常業務だけでもスケジュールが破綻寸前なのに、作品制作などできるのか?という大問題があったわけですが、毎日、修行のように早朝30〜60分間、無理やり時間を確保する、という、いつものやり方を踏襲して乗り切りました。(だいぶ体にダメージを受けましたが..)

そして今週、これまでの進捗を大学院レビューにて発表。

絵画や彫刻などの芸術領域、他デザイン分野の先生や学生達に混ざっての発表は、なかなかの緊張でしたが、想像していない方向からの質問やアドバイスが多数あり、発見や刺激に満ちた、実に貴重な機会となりました。

ということで、ひとまず第一段階終了。

と思っていたのですが、その後、学生同士の作品に対するコメントが送られてきました。そこには40人ほどの学生達の相互の率直な感想や批評が書いてあるのですが、これが実に熱く、読み応えがあって、面白い。

もしかすると展示や発表ではなく、この相互のレビューが大学院レビューの真髄なのかもしれません。実に素晴らしいです。

参加された皆さん、お疲れ様でした!

https://www.zugakousaku.com/heijitsu
Understand Music
finally.

ドイツのマインツに拠点を置くデザインスタジオ「finally.」が制作したモーショングラフィックス。音楽の様々な特徴を「動く譜面」として視覚化した映像。ピアノの練習のような雰囲気と、テンポの良い展開が素敵です。

https://vimeo.com/54763818
CICLOPE
The Line Animation Studio Ltd

広大で美しい背景と、澄み渡る音楽。鮮やかな色彩の対比と心地良いスピード感。孤独なドローンが健気に見えてきて、切なく、その行く末を見届けたくなります。

2016 Ciclope Festival Awardsのオープニング映像として制作されたコンピュータグラフィックス作品。制作したのはロンドンのThe Line Animation Studio。表現のタッチやストーリー展開など、素晴らしいの一言。

https://www.thelineanimation.com/work/ciclope/
異端児の城
青谷明日香

直線的に育つ樹木がないように、僕らはどこかいびつです。鏡を見ればそこには自分という異端児が、でも、周りを見渡しても実は異端児ばかりなんですよね。だから、こうあるべきという形を捨てて、多様な歪んだ形を受け入れ合う、というのが豊かな生き方なんだろうな、と思うのです。

http://aoyaasuka.com/itanjinoshiro.html
平成
折坂悠太

坂の上の雲を追い求めた昭和から、坂を下った先の平成へ。テレビの向こうから聞こえてくる戦火に、本当にこんな生き方で良いのか?と問いながら駆け抜けるフラットな毎日。

多国籍な音楽性と、独創的な歌詞の世界。音楽的な豊かさを感じると同時に、平成という時代を、鮮やかに音楽化した才能に圧倒されるばかりです。

http://orisakayuta.jp/heisei/
分離派の夏
小袋成彬

見てはいけない手紙を読んでしまったような、卒業文集の中の一片を思い出すような、鋭い私小説。そしてその小さき個が、激しく空へと広がるような世界。Summertime/分離派の夏/Piercing。それぞれ雰囲気はガラッと変わるのですが、どれも鮮やかな対比が印象的なアルバムです。

http://obukuro.com/
ダーウィンのジレンマを解く
マーク・W・カーシュナー

人よりもはるかに色彩を見分けられる水生生物。水分がほとんどない砂漠に住む爬虫類。標高8000mの山脈を超える渡り鳥。過酷な自然環境に適応した様々な動物たちの高度な機能性を見ていると、本当に、突然変異のようなランダムな遺伝子の変化だけで、このような進化が可能なのだろうか?という気持ちが湧いてくる。

眼のような複雑な器官の扱いにダーウィンは窮した。最初の眼が出現するには、それ以前に部品が独立して進化していなければならない。マーク・W・カーシュナー著「ダーウィンのジレンマを解く」

領域は違いますが、コンピューターの世界における遺伝的アルゴリズムや機械学習においても、適切な適用にはその世界を司る大いなる存在が必要になるのではないか、と思うことがあります。

本書では進化の鍵として、生物体のネットワークや環境の刺激といった「複雑さ」が述べられています。読み進めていく中で、私の心に浮かんできたのは、その「複雑さ」こそが、人が古来から、神的存在として捉えてきた概念なのではないかということでした。

ダーウィンが変異と選択を柱とする進化論を提唱したことは彼の偉業であるが、変異に対し納得のいく説明をすることができなかった。ダーウィンのジレンマであるマーク・W・カーシュナー著「ダーウィンのジレンマを解く」
時計の一番簡単な部品であっても、やみくもに試行錯誤を繰り返しただけで、そのすぐれたデザインを作り出せるとは到底信じられない。マーク・W・カーシュナー著「ダーウィンのジレンマを解く」
進化論は難解な科学の問題というより、アメリカの政策の中に繰り返し浮上する感情的な問題である。進化論の反対者は公立高校のカリキュラムから強制的に排除しようとしている。マーク・W・カーシュナー著「ダーウィンのジレンマを解く」
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