平日ダイヤ

或る男の、終わりなき乱数的日常

リアルタイム映像作品

誰しも、自分だけの記憶を
人知れず忘れながら生きている。

昨日の夕焼け、見かけた猫。
舌を噛んだこと。
変わりばえのしない薄曇りの日々。

それは、すべてが二度と巡り合えない、
珍妙な奇跡の連続。

さあ、高らかに奏でよう、平日への惜しみない賛歌を。
輝ける毎日への喝采とともに。

繰り返しと偶然が可能にする物語

見るたびに組み合わせが異なる偶然性の高い映像が、終わりなく続く。こうした表現が物語を語りうるのか、そしてもし物語を語るためにはどんな表現が必要なのか。こうした好奇心からこの作品制作は始まりました。

まず調査したのが、偶然性を採用した表現の歴史でした。18世紀中頃にヨーロッパで数多く出版された「音楽のサイコロ遊び」。アンドレ・ブルトンが1924年に宣言したことから始まる「シュルレアリスム」。1960年代から発表され始める「ジェネラティブアート」などは、どれも人間の意識外にある要因を表現の中に取り入れ、新たな表現に挑戦しています。

そして調査の分析から作品の方針を確定させました。

  • 繰り返し構造を持たせる
  • 多様性を確保する
  • 意外な展開を生み出す

三億パターンの光景

作品はビジュアルとテキストがランダムに構成され続けるリアルタイム3DCG映像作品となりました。背景や登場するオブジェクトの意外な組み合わせが次々と不思議な光景を生成し、「日常」と「非日常」を行き来することで物語を綴っていきます。

光景の組み合わせ数は約三億パターン。おそらく、一度見たシーンを、再び見ることはできないでしょう。デジタルという複製芸術を生み出す装置で、人生で一度しか見ることとのできない、儚い一回性を作り出すことを目指しました。

メタファーの集合体

舞台は傍観や義務といった心情として、小道具は危険や消費などの記号のメタファーとして選定しています。乱数によって構成される情景は無秩序になりすぎる傾向がありますが、要素の選定によって柔らかな秩序を生み出すことを狙っています。

「映像編集」ではなく「映像開発」

開発ツールはUnreal Engine。日進月歩のゲームエンジンを映像制作に初めて活用しました。開発は難航を極めましたが、3DCGとアルゴリズムから作り出される新しい映像のあり方が見出せたように思います。

研究としての作品制作

平日ダイヤは修士一年の研究成果として作成しました。研究では三つの目的を掲げてリサーチと開発を進めてきました。初期衝動のままに完成させるのではなく、先行研究や考察と改良を重ねてバージョン1.0を作り終えました。

  1. リアルタイム映像技術の即興性を活用し、物語を自動生成し続けられないか?
  2. 一回性の高い映像だからこそ可能となる物語はあるか?
  3. 新しいテクノロジーを中心とした映像制作プロセスの確立

研究成果をまとめると、改めて様々な発見と課題が蓄積されました。真剣に自分自身や作品作りに向き合うことも、もしかすると人生で初めてかもしれません。そしてまだまだ挑戦しなければならないことが沢山あることにも気づかされました。この作品制作を通して、新たな表現の方向性が見出せたと考えています。

実際の作品の記録映像 #1

バージョン

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