お菓子と発明の夜更かし

エッセイ

おそらく人生で初めてのインフルエンザに感染する。最初の夜は高熱にうなされて夜も眠れず。割れんばかりの頭痛を耐え忍ぶ。ただ耐えるばかりでは悔しいので、最近読んだ脳の本を思い出し、脳で繰り広げられているだろうはげしい営みを思い浮かべながら痛みに耐えるのであった。

そのためか、その夜見た夢は、これまでにない抽象的な夢だった。真っ白な空間に大きな黒い液体が浮かんでいて、形を自在に変えながらいろいろな方向へ流れては戻ってくる。そんな現象のような夢。

二日目の夜。熱も下がってきた私は寝室で眠れず天井を見つめていた。一日中寝るなんてめったにないことだから、身体が拒否反応をしたのかもしれない。ふと脇で寝ているはずの娘の方に目をやると、意外にも暗闇の中で娘と目が合った。どうやら彼女も眠れないようだ。

実はこのインフルエンザは、そもそも彼女の学校で流行ったもので、彼女も彼女の弟も、私が倒れる数日前に寝込んでいた。私はそのウィルスを防ぎきれなかったという訳である。

眠れないね、と、二人で隣の部屋に行き、暖房をつけ、即席のコーンスープと食パンをかじった。それとついでに、彼女が苦手だった粉薬の飲み方を練習した。それで、眠くなるにはどうしたら良いかと考えて、本を数冊読もうという事になる。私は近くにあった「発明」という本を選び、彼女は「パリのお菓子」という本を手にした。

私はせっかくなので、火とか鉄とか、車輪とかの発明がいかに人間に大きな影響を与えたかを、彼女に伝えようとしたのだが、結局はどのお菓子が美味しそうかという話に終始した。本の中には夢のようなスイーツの世界が展開していた。色とりどりのマカロンや、ケーキ、エッフェル塔のチョコレート。昨年家族で行ったパリが鮮やかによみがえる。

まあ、自然に眠くなる本としてはパリのお菓子の方が正解だった。夢に車輪が出てきてもそれほど楽しくはないだろうし(私は楽しいが)、ましてや黒い液体なんか出てきたら悪夢だな。と思いながら数冊の本を読んで、二人で寝室に戻る。娘は何事もなかったように眠りについた。さて、かくゆう私はまだ眠れず、こうしてこの文章を書いている訳なのです。

追記。この文章を書き終えた頃、弟が起きてきた…。こうして夜はもう少し続くのでした。

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